「他は我慢しても、車だけは手放したくなかった」
今思えば、かなり身勝手な考えだったと思います。
それでも当時の私にとって、ハリアーは単なる移動手段ではなく、
- 家族の生活の一部
- 中年男のプライド
- 現実からの隠れ家
という存在でした。
▪️好きな車だけは、残したかった
愛車はトヨタ・ハリアー。
レクサスや輸入車ほどではありませんが、世間的には「高級SUV」と言われる車です。
ガソリン車のグレードで、オプションや諸費用込みで約500万円。
残価設定クレジット、いわゆる「残クレ」で新車を購入しました。
月々の支払いは、保険料込みで約5万2,000円。
燃費は良くなくて、街乗りでリッター10kmちょっとでした。
それでも、
「他は我慢しても、好きな車には乗りたい」
そう思っていました。
ただ、今振り返ると
「他も大して我慢していなかった」
というのが正直なところです。
▪️残クレという選択
残クレは、月々の支払いが抑えられます。
色々と言われていますが、従来であれば手が届かない車に乗れるのは、良い仕組みだと思います。
ただそれは、月々の金額が払えればの話。
月5万円台という金額は、すでに多額の借金を抱える私には無理があったのです。
それでも私は数字を見て「いける」と思ってしまいました。
当時の私は、
「支払えるかどうか」
ではなく、
「その車が欲しいかどうか」
で判断していたのだと思います。
▪️ハリアーを残したかった理由
債務整理を考え始めた当初、
正直なところ「ハリアーだけは残したい」と思っていました。
理由はいくつもあります。
- 生活の足として必要だった
- 純粋に愛着があった
- 妻は借金のことを知っているが、親や子供たちは知らない
- 親戚や近所の人に、車がなくなると不自然に思われる
- 会社の車好きの人ともハリアーの話をよくしていたから、会社にバレるリスク
- ディーラーの担当者とも長い付き合いで、借金苦を知られるのが恥ずかしかった
どれも言い訳だと言われれば、その通りです。
ただ当時は、どれも本気で考えていました。
▪️一度は考えた「任意売却」
当時、ハリアーの新車は納車まで半年以上待ちの状態でした。
中古車市場も高騰していました。
ネットを見ると
高価買い取り!
の文字が躍ります。
「もしかしたら、ローン残債以上で売れるかもしれない」
そう考え、任意売却も検討しました。
もし余剰が出れば、そのお金を借金返済に回せます。
一見、現実的な選択肢に思えました。
しかし、すぐに壁にぶつかります。
ハリアーを購入した時、
1年間は転売しない
という誓約書を書いていました。
誓約書の法的な拘束力はさておき、所有権がクレジット会社にある以上、勝手な売却は困難でした。
▪️弁護士との相談で方針が固まる
弁護士との相談が進む中で、債務整理手続きの方針は「任意整理」から「個人再生」へと変わっていきました。
そして、はっきりと説明されました。
個人再生では、特定の債権だけを優遇して返済することはできません
つまり、ハリアーのローンだけを残す、という選択はできないということです。
制度上、厳格に守らなければならない部分でした。
「受任通知書を出す前であれば問題ない」
という考えも頭をよぎりましたが、借金の状況に、そこまでの時間的余裕はありませんでした。
▪️「手放すしかない」と腹をくくった日
選択肢を一つずつ消していくと、残る答えは一つしかありませんでした。
「ハリアーは、手放すしかない。」
この時点では、まだ引き揚げの日程も決まっておらず、具体的な話も進んでいませんでした。
ただ、身勝手ながらも
「守りたいと思っていた一線が崩壊する」
という感覚だけは、はっきりとありました。
▪️忘れられない、一本の電話
その時はすでに任意売却を諦めていました。
手続き上、ディーラーに連絡をする必要はなかったと思います。
それでも、長い付き合いだったこともあり、黙って終わるのは違う気がしました。
いつものようにハリアーの中から、ディーラー担当者の携帯に電話し、こう伝えました。
「実は残クレ以外にも多額の借金があり、返済を続けることが難しくなりました。法的手続きに入るのでご迷惑をおかけすることになると思います。本当に申し訳ありません」
担当者は驚いていましたが、返ってきた言葉は意外なものでした。
迷惑というのはクレジット会社にはそうかもしれませんが、会社や自分はそんなことありません。気にされないでください
そうなのかもしれません。
売ってなんぼの営業マンにとって、売り終わった車のことは余り関係ないのかもしれません。
それでも
気にされないでください
と言ってもらったことで、胸の奥に溜まっていたものが、少しだけ軽くなった気がしました。
▪️まとめ
後になって思います。
これは、車を手放す話ではありませんでした。
見栄やプライド、そして過去の自分と決別する話だったのだと思います。
次回は、
実際にハリアーが引き揚げられた日のことを書きます。
ガレージが空いた朝の、あの静けさも含めて。
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